2022年10月24日

【クリニックに行く前に】不妊治療を受診するときに必要になるもの

 

不妊治療のクリニックを受診する前に、準備しなければいけないことがいくつかあります。すぐには用意できないものもあるため、余裕を持って準備することが大切です。

 

また、不妊治療の金額や保険制度など、知識として予め知っておくべきこともあります。不妊治療を受ける前に準備するものと知っておくべきことについて、広尾レディースクリニック院長の宗田聡医師にお話を聞きました。

 

この記事の監修者
宗田 聡 (そうだ さとし)
広尾レディース院長・茨城県立医療大学客員教授
産婦人科専門医・臨床遺伝専門医
筑波大学卒業、1997年より筑波大学講師。
1999年 米国ボストンのNew England Medical Center(NEMC)留学
2005年 水戸済生会総合病院産婦人科部長・茨城県周産期センター長と筑波大学産婦人科臨床准教授を兼任
2012年 女性の健康をトータルにケアするクリニック「広尾レディース」を開院、現在に至る。

東京慈恵会医科大学産婦人科講座非常勤講師、筑波大学大学院や首都大学の非常勤講師等、
日本周産期メンタルヘルス学会評議員、東京産科婦人科学会評議員、産科医療補償制度原因分析委員会委員など。

著書:
『ニューイングランド周産期マニュアル』『31歳からの子宮の教科書』『これからはじめる周産期メンタルヘルス』『EPDS活用ガイド』等。

 

目次

不妊治療のクリニックに行く前に必要なものと準備期間

 

不妊治療でクリニックを受診する際に必要なものはありますか?

 

不妊治療のクリニックに行くときは、健康保険証は必ず持っていきましょう。クリニックによって、初診時に持ってくるもの顔写真付きの公的身分証・     住民票・戸籍謄本・基礎体温表・血液検査のデータ・受診するクリニックの問診票・紹介状)が異なりますので、クリニックのHPで確認することをお勧めします。     

 

クリニックによっては、基礎体温表を持っていくことで診察がスムーズになることがあります。詳しくは、予約時にクリニックに確認してください。

 

人気があるクリニックの場合は予約を取るのが難しく、二度目の受診までに時間が空いてしまうケースもあります。女性は30歳を超えてから妊娠能力が少しずつ低下し始めるため、できるだけ早い段階で不妊治療を受けることが大切です。時間を無駄にしないよう、クリニックを受診する前に必要なものをすべて揃えておきましょう。

 

 

不妊治療をするにあたって、公的身分証や住民票などの本人確認書類が必要なのはなぜですか?

 

公的身分証は、不妊治療を経て生まれた子どもの親の身元を明らかにしておくために必要です。公的身分証の一例としては、運転免許証やパスポート、顔写真付きの住民基本台帳カード、顔写真付きのマイナンバーカードなどが挙げられます。

 

公的身分証明書として認められる書類はクリニックによって異なりますので、事前に確認しておきましょう。また、旧姓の方は、現在の戸籍上の名前が掲載されている証明書を持っていくようにしてください。

 

また、住民票や戸籍謄本は、患者である女性がパートナーと婚姻関係にあるかどうかを確かめるために使用します事実婚をはじめとして婚姻関係にないパートナーと治療を受けたい方は、クリニックの予約時にその旨を相談しておくとよいでしょう。

 

 

不妊治療を受けるまでの準備期間はどのくらい必要でしょうか?

 

早い方で1週間程度ですが、場合によっては2~3カ月かかることもあります。

 

ただし、クリニックによっては予約が取りにくく、予約できるのが数ヵ月先になる場合もあります。不妊治療を検討し始めたら、まずはクリニックに問い合わせてみましょう。そして受診前までに、クリニックから指定された書類を準備するようにしましょう。

 

 

不妊治療を受診する前に、自分の体調について振り返っておこう

 

クリニックで診察する際に、必要な書類や準備しておくべきことはありますか?

 

ご自身の体調や病歴についてまとめておくとよいでしょう。具体的には、生理の状態や妊娠・出産経験の有無、持病や服用している薬の有無、既往歴などです。とくに性感染症や子宮筋腫などの婦人科系の病気の既往歴がある方は、不妊になりやすい傾向があります。こうした事柄をまとめておくことで、よりスムーズに診察を受けることができます。     

 

 

クリニックで診察する際に、どんなことを聞かれるのでしょうか。

 

下記のようなことを聞かれるので、まとめておくと良いでしょう。

 

生理の状態

生理の状態を伝えることで、不妊の原因となる病気や症状を見つけやすくなる可能性があります。たとえば、月経日数が長ければ子宮筋腫がある可能性がありますし、生理がなかなか来ない場合は排卵機能に異常があることもあるためです。

 

不妊治療の前にまとめておくべき生理の状態は、直近の生理開始日や、生理が来る間隔、月経日数と経血の量、初潮年齢などです。また、生理や性行為の際に痛みを伴う場合なども伝えましょう。

 

妊娠・出産経験の有無

妊娠・出産経験の有無も、不妊治療の計画を立てるうえで重要な要素です。また、流産や人工妊娠中絶を経験したことがある方は、その旨も診察時に担当医に伝えてください。

 

持病や服用している薬の有無

持病や服用している薬がある方は、お薬手帳を必ず診察に持っていきましょう。お薬手帳を持っていない方は、今処方されている薬をクリニックに持っていくことをお勧めします。病気や薬の種類によっては不妊治療および妊娠・出産に影響を与えることから、不妊治療が行えないケースもあるためです。とくに、子宮筋腫、子宮内膜症などの婦人科系の病気、糖尿病などの生活習慣病、甲状腺機能異常などの基礎疾患、高血圧などの症状がある方は、クリニックを予約する際にその旨をスタッフに伝えてください。

 

また、他の不妊治療クリニックへの通院をしている方は、他院での治療が終了するまで、新たなクリニックでの受診ができないケースもあります。治療が終了していても、治療周期によっては治療をすぐに始められないこともあるため、受診を検討しているクリニックの予約時に、スタッフに相談してみるとよいでしょう。

 

性感染症の既往歴

性感染症の既往歴がある場合は、かかった時期や行った治療を担当の医師に伝えてください。クラミジアや淋病などにかかると卵管が炎症を起こし、排卵機能に影響を及ぼし、妊娠しにくくなる可能性があるためです。(*1)

 

治療内容についての要望や個人的な事情

治療内容についての要望があれば、初診時に担当医に伝えられるよう準備しておいてください。基本的な治療方針として、タイミング法を試してもうまくいかない場合は人工授精、次に体外受精とスモールステップで進んでいくクリニックがほとんどですが、女性の年齢や要望によっては、体外受精から始められるケースもあります。

 

また、仕事が忙しく、急に休みにくいなどの事情がある場合も伝えられるよう準備しておきましょう。できる範囲で考慮してもらえる可能性があります。

 

自分の体調について振り返る中で、生活習慣の見直しをはかり、妊娠しやすい身体づくりを意識しておくと、不妊治療がスムーズに進む可能性もあります。妊娠しやすい生活習慣の一例としては、ストレスを溜めないようにすること、栄養バランスがとれた食事、規則正しい生活、十分な睡眠、禁煙などが挙げられます。

 

 

不妊治療にかかる費用と保険適用について

 

不妊治療の初診時の料金の目安を教えてください。

 

クリニックによって異なりますが、不妊治療に必要な検査をひと通り行うと1~5万円程度かかります。不妊治療は2022年4月以降、ホルモン検査や精液検査は健康保険が適用されるようになりました。しかし、感染症検査や抗精子抗体検査などは、保険が適用されないため、クリニックによって金額が変わってきます。

 

また、クレジットカードや電子マネーでの支払いができないクリニックもあるため、事前にHP等で支払方法を確認するとよいでしょう。     

 

 

不妊治療が、クリニックによって検査費や治療費に差があるのはなぜですか?

 

クリニックごとに検査や治療の方法が異なるためです。

 

不妊治療の診療は、保険が適用されて3割負担になる保険診療と自費負担の自由診療の大きく2つに分かれます。保険診療はどの病院でも同じ内容・料金で受けられますが、検査の種類に限りがあります。

 

そのため、保険適用内の検査や治療に限定すると、自分にとって必要な検査や治療が受けられない可能性もあります。一方で自費負担の自由診療は保険が適用されないため、高額になる傾向があるものの、規定にとらわれない自由な診療を行えます。

 

クリニックによっては、患者に合った診療を提供するために、保険診療を行わないと決めているところもあります。そのため、クリニックを選ぶ際は、各クリニックの方針を事前に確認しておくとよいでしょう。各クリニックの方針を知るには、ホームページの閲覧や電話での確認のほか、各クリニックが実施している説明会に参加する方法もあります。

 

 

不妊治療で保険の適用を受けられる条件にはどんなものがありますか?

 

画像引用元:厚生労働省「不妊治療の保険適用画像引用元:厚生労働省「不妊治療の保険適用」(*2)

 

一般不妊治療に含まれるタイミング法や人工授精と、生殖補助医療(ART)の過程である採卵・採精、体外受精、顕微授精、受精卵・胚培養、胚凍結保存、胚移植など、関係学会のガイドラインで有効性・安全性が認められた診療が対象となります。生殖補助医療(ART)の中で、上記に加えて行われるオプション治療についても保険診療の対象となることがあります。また、問診や一部の検査も保険適用となっています。

 

しかし、保険適用で不妊治療を受ける場合、以下のような年齢制限と回数制限があります。

 

年齢制限 年齢制限

治療開始時において女性の年齢が43歳未満であること。

 

回数制限 回数制限

初めての治療開始時点の女性の年齢が40歳未満の場合は、1子ごとに通算6回まで。 初めての治療開始時点の女性の年齢が43歳以上の場合は、1子ごとに通算3回まで。

 

また、婚姻関係にある夫婦だけでなく、事実婚関係にある夫婦であれば適用可能です。

 

ただし、診療内容が保険適用の対象であっても、医療機関が保険診療を行うための届出をしていなければ、保険適用になりません。保険診療を受けたいは、方は受診するクリニックでの治療に保険が適用できるかどうか、HP等で確認しておくとよいでしょう。

 

 

不妊治療の医療費を抑える方法はありますか?

 

保険適用の治療については、月の医療費が一定額を超える場合は、一定額以上支払わなくてよいという高額医療費制度を利用できます。この金額の基準は年齢や所得によって異なりますが、年収約370万~約770万円の方の場合は、自己負担額が1カ月あたり8万円程度になります。手続きの方法は、加入している保険ごとに異なるため、詳しくは加入している医療保険者(市町村や国保団体)にお問い合わせください。

 

 

不妊治療を終えるまでにかかる料金の目安を教えてください。

 

治療の内容にもよりますが、体外受精を受けた方の場合は50~200万円程度かかっています。「不妊治療の実態に関する調査研究によると(*3)、体外受精をした方の29.1%が、治療費に100~200万円かけていることがわかりました。しかしこれは、不妊治療が保険適応される前のデータですので、このデータよりも実際の支払額は少ない可能性があります。

 

一方で、排卵日に合わせて性行為を行うタイミング法経験者で、治療総額が10万円未満だった方は全体の70%です。精子を卵管に注入する人工授精経験者で、治療総額が20万円未満だった方は57.5%であることを考えると、体外受精をするか否かで金額が大きく変わってくることがわかります。

 

さらに、上記の報告書の中には、治療をしても妊娠・出産に至らなかった方も含まれています。不妊治療にかけられる上限の金額と期間は予め決めておくと良いでしょう。

 

 

クリニックで不妊治療を受ける前に知っておきたいことQ&A

 

不妊治療を受けるタイミングはどのくらいが適していますか?

 

不妊症の定義は、妊娠を試みてから1年経っても妊娠しない場合です。そのため、妊活開始から1年を過ぎてから受診する方もいます。ただし、女性は30歳を過ぎると妊娠能力が低下し始め、35歳になると妊娠能力が著しく低下し始めます。そのため、年齢によっては妊活開始から1年を待たずに受診したほうが良い方もいます。(*4)

 

 

不妊治療のクリニック選びのコツを教えてください。

 

不妊治療のクリニックを選ぶ際は、生殖医療専門医がいるクリニックを受診するとよいでしょう。生殖医療専門医とは、生殖医療に特化した専門知識や実績を持った医師のことで、厳しい審査を通過した医師だけが一般社団法人生殖医療医学会から認定されます。全国の生殖医療専門医のリストは、こちらをご覧ください。

 

また、上記以外の不妊治療を行うクリニックの選び方の軸には、以下のようなものがあります。


・男性不妊に対応しているか

・カウンセリングなどの相談はできるか

・体外受精や移植の方法は選べるか

・採卵時の麻酔はあるか

・女性医師が担当してくれるか

・子連れで受診できるかどうか

・家から通いやすいか

 

クリニックを比較検討し、何の条件を優先させるかなど考えて自分に合ったクリニックを選びましょう。そのためにも不妊治療の基礎知識を事前に学んでおきましょう。

 

 

初診日の所要時間を教えてください。

 

クリニックによって異なりますが、検査を一通り行った場合は待ち時間を含めて3~4時間かかることもあります。そのため、時間に余裕を持って行動できる日に予約を入れるとよいでしょう。

 

 

初診日はどのような服装で行けばよいでしょうか?

 

とくに決まりはありませんが、内診を行うこともあるため、着脱しやすい下着、ボトムスでいくとよいでしょう。ワンピースやつなぎなどはすべて脱がなければいけなくなるため、避けたほうが無難です。

 

 

初診日に生理が被りそうな場合は、予約を取り直したほうが良いでしょうか?

 

初診日に生理が被っても、基本的には問題ありません。ただし、生理中だと検査できない項目がある場合もあります。クリニックによって方針が異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。

 

 

初診日はパートナーも一緒に来院したほうが良いでしょうか?

 

基本的には、最初の受診はパートナーと一緒がよいでしょう。不妊治療は女性だけが原因で治療が必要なのではありません。実際には不妊の原因の半分は男性側にありますので、最初に二人で今後の検査や治療方針をしっかりと聞いておくことが大事なのです。どうしても初診日に同伴できないようであれば、診察時に次回同伴のスケジュールなどを確認してください。

 

 

クリニックで不妊治療を受ける前にはしっかりとした準備と心構えを

 

不妊治療を受けるには、たくさんのお金と時間がかかります。自分に合ったクリニックや治療を選ぶために、事前に情報を集めて比較検討しておきましょう。

 

また、パートナーの方とよく相談し、二人のライフプランを話し合ったうえでどこまで治療するか?いつまで治療するのか?などを決めておくことも不妊治療において大切なことです。不妊治療を経ても残念ながら子どもを授からないケースもあります。経済的にいくらまで、年齢的にいつまで治療を続けるかも予め話し合って決めておくと、夫婦間のすれ違いを避けられる可能性があります。

 

不妊治療はつらく厳しい道のりになることもありますが、お二人で協力し合える関係を築いておきましょう。

 

 

参考文献

(*1)参考文献 「不妊症の病態生理と診断・治療」・真興交易医書出版部・p26-27

(*2)参考文献 厚生労働省 令和4年4月から不妊治療が保険適用されます

(*3)参考文献 野村総合研究所「不妊治療の実態に関する調査研究」p138

(*4)参考文献 日本生殖医学会 不妊治療Q&A Q5 どんな人が不妊症になりやすいのですか? 

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