女性が不妊になりやすい原因には、子宮や卵巣と卵管、頸管、排卵機能、免疫機能、卵子の質の低下など、多岐に渡ります。
女性の不妊の原因には、先天性と後天性と大きく2つに分かれます。後天性のものは生活習慣を整えることで、予防できる場合もあります。不妊の原因を知り、不妊になりやすいライフスタイルを避け、妊娠しやすい身体をつくっておきましょう。今回は、杉山産婦人科新宿診療部長、順天堂大学産婦人科学講座非常勤講師の黒田恵司医師にお話を聞きました。

2003年 産科婦人科 舘出張 佐藤病院
2004年 東京女子医科大学 第二生理学教室 体外受精・卵活性化について研究
2005年 順天堂大学医学部附属順天堂医院 産婦人科学講座
2007年 順天堂大学院 医学博士課程 学位授与、産科婦人科学講座 助教
2010年 Institute of Reproductive and Developmental Biology, Imperial College
London Hammersmith Campus 子宮内膜脱落膜化について研究
2011年The Division of Reproductive Health, Clinical Science Research Institute,
University of Warwick 原因不明習慣流産、着床について研究
2012年 順天堂大学 産科婦人科学講座 助教
2013年 順天堂大学 産科婦人科学講座 准教授
2018年 杉山産婦人科新宿 難治性不妊症診療部長 内視鏡診療部長、
順天堂大学産婦人科学講座 非常勤講師 現在に至る。
専攻領域:不妊症、不育症、内視鏡手術(腹腔鏡、子宮鏡)
専門医:日本産科婦人科学会 産科婦人科専門医、日本生殖医学会 生殖医専門医
認定医:日本産科婦人科内視鏡学会 産科婦人科内視鏡技術認定医、日本不育症学会 不育症認定医
著書:
データから考える不妊症・不育症治療, メジカルビュー社
Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage, Springer社など
女性不妊の主な原因と症状
女性が不妊になる主な原因と症状にはどんなものがありますか?
女性が不妊になる主な原因は、受精卵が着床して育つ子宮や、卵巣と子宮をつなぎ精子や卵子、受精卵を運搬する卵管、射精した精子の子宮の入り口である子宮頸管、卵子を排出する排卵、体外からの侵入した精子や受精卵に対する免疫などの異常が挙げられます。さらに、これらの異常の程度は人それぞれですし、複数の原因が重なっていることもあります。なかなか妊娠しない方は早めに検査してみるとよいでしょう。(*1)
不妊の原因が卵管の場合はどういった不調が考えられるのでしょうか。
卵管は、卵巣と子宮をつなぐパイプのような役割を果たしています。精子は卵管を通り、卵子と出会って受精するため、卵管が機能していないと受精することができません。2つある卵管のいずれもが塞がっている場合は、体外受精(IVF)をすることも視野に入れておきましょう。
不妊の原因となる卵管の病気には、クラミジア感染症や子宮内膜症、卵管水腫、卵管機能障害などがあります。

クラミジア感染症は、クラミジア・トラコマチスという病原体による性感染症です。感染すると、子宮頸管や卵管が炎症を起こしたり、卵管が癒着・閉塞を起こして不妊の原因になったりすることもあります。さらに、子宮や卵管で起きた炎症により、子宮内膜が炎症を起こす子宮内膜炎や、受精卵が卵管内で着床してしまう子宮外妊娠などのリスクが高まります。
クラミジア感染症は自覚症状がなく、感染しても気が付かないケースがほとんどです。妊娠したいかどうかにかかわらず、性病検査を定期的にしておきましょう。

子宮内膜症は、子宮内膜や子宮内膜に類似した組織が子宮以外の場所で発生する病気です。子宮内膜症になると、子宮内膜症病変に血液が溜まったり、子宮、卵巣、卵管などが周囲の組織と癒着したり、骨盤内が慢性的に炎症を起こし、月経困難症や慢性骨盤痛の原因となります。
子宮内膜症は、卵管が癒着し卵管機能障害となることもありますし、慢性的な骨盤内炎症が精子の運動障害や精子と卵子の受精を阻害する原因となることもわかっています。また卵巣に子宮内膜症ができ卵巣のう胞(卵巣チョコレートのう胞)となれば、卵巣予備能を低下します。

卵管水腫は、卵管の閉塞によって、卵管の内部に液体(水腫液)が溜まる病気です。卵管が閉塞しているため、精子と卵子が出会う受精ができません。また、体外受精(IVF)を行っても、炎症性の高い水腫液が子宮へ移植した受精卵へ影響して妊娠率が下がります。
卵管水腫の自覚症状は、排卵期から黄体期にかけて水っぽいおりものが出ることがあります。クラミジアとの関連も強い病気のため、抗体検査で陽性だった方は、担当の医師にその旨を伝えておくとよいでしょう。

卵管機能障害は、卵巣から出てきた卵子が、卵管の先端で卵子がキャッチされなくなってしまう障害です。精子と卵子は卵管内で出会うため、卵子がうまくキャッチできないと、受精ができなくなってしまいます。卵管機能障害の原因はわかっておらず、この障害が起きているかどうかを調べる方法も今のところはありません。
不妊の原因が子宮頸管の異常である場合、どういった問題が考えられますか。
子宮頸管は、射精された精子が侵入する子宮の入り口です。正常な頸管内では、排卵の3~4日前から頸管粘液の分泌が増加します。頸管粘液の分泌が少なくなると、精子が子宮に侵入しにくくなり、妊娠率の低下につながります。頸管粘液分泌不全の原因としては、子宮頸部の手術、子宮頸部の炎症などが挙げられます。(*1)
不妊の原因が排卵機能の異常である場合には、どういった問題が考えられますか。
排卵機能の異常は、何らかの理由で、卵巣から卵子が排出されない状態です。卵子が排出されないと、卵管内で精子と出会って受精することもできないため、不妊の原因になります。
排卵機能が正常に働かない原因としては、早発卵巣不全(早発閉経)や多のう胞性卵巣症候群(PCOS)、ホルモンの分泌異常、体重が適正でないことなどが挙げられます。

早発卵巣不全は、40歳未満であるにもかかわらず、卵巣の機能が低下して3ヵ月以上排卵がない無月経状態になることを指します。多くの原因は不明ですが、卵巣の手術や抗がん剤・放射線治療、染色体・遺伝子の異常などが原因となることがあります。

多のう胞性卵巣症候群(PCOS)は、卵子入っている卵胞がなかなか発育せず排卵できないため、排卵できない卵胞がたくさん卵巣に存在し多のう胞となる状態を指します。
多くの原因は不明ですが、肥満・糖尿病や男性ホルモン値が高くなることが関与しています。排卵障害があるため、基本月経不順で不正出血が起きることもあります。また日本人には少ないのですが、男性ホルモン値が高い場合に体毛が濃くなったりすることがあります。
妊娠を希望する場合は、肥満があるときはダイエットを行い、また排卵障害に対して経口または注射による排卵誘発剤を使用します。

排卵をコントロールするホルモンの分泌に異常を来たすことで、排卵しにくくなることがあります。代表的な病気として、低ゴナドトロピン性性腺機能不全や高プロラクチン血症などがあります。これらのホルモン異常の原因と対処法はそれぞれ異なるため、まずは血液検査などでホルモンの数値を測定し、排卵障害の原因を特定することが大切です。

やせ(低体重)や肥満は、ホルモンバランスが崩れ、排卵しにくくなり、不妊の原因につながります。適正体重を示す指標の一つに、BMI(体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))があります。
このBMIが18.5以下だと低体重、25以上だと肥満となり、低体重は脳の視床下部へ影響し、卵胞発育するホルモンの分泌障害となり排卵障害となり、また肥満では前述の通りPCOSとなり排卵障害となることがあります。
不妊の原因が免疫機能の異常と認められる場合、どういった問題が考えられますか。
免疫異常で、精子の運動を妨げる精子不動化抗体(抗精子抗体)を有する女性もいます。精子不動化抗体を持つ女性では、子宮頸管で精子が侵入できない、もしくは卵管内で精子が受精できない(受精障害)ため、不妊症になることがあります。
また半分男性から由来する受精卵を子宮内で受け入れる場合に、免疫の異常により着床しないもしくは着床後流産することもあることがわかっています。
卵子の質の低下が、不妊になりやすいのはどうしてですか。
卵子の機能に低下・異常が見られると、不妊になりやすくなります。卵子の質の低下の多くは加齢が影響していると考えられています。

加齢の影響により、卵子の質が低下して妊娠能力が下がることがあります。17~20世紀のアメリカやヨーロッパ、イランなど世界10ヵ所のデータによれば、女性の妊娠率は30歳から低下し始め、35歳で妊娠率の低下が顕著になり、40歳になると30代前半の妊娠率の半分以下になることがわかっています。
そのすべてが卵子機能の低下に関係しているとは言えませんが、できるだけ早い段階で妊活を始め、35歳以上から妊活を始める場合は、まず不妊治療専門のクリニックを受診してください。

受精卵の染色体本数や構造が異常だと、細胞分裂の段階で染色体がきちんと分かれないなどの不具合を起こし、流産してしまいます。染色体異常の最も大きい原因は、母体の加齢です。
不妊になりやすい女性の特徴 (*8)
不妊になりやすい女性の特徴を教えてください。
一概には言えませんが、月経の異常がある女性や、過去に性感染症・骨盤腹膜炎、子宮筋腫、子宮内膜症などを指摘されたことがある女性は、不妊になりやすい可能性があります。
また、35歳以上の女性も妊娠能力が低下しやすいため、不妊になりやすいとも考えられます。こういったことに心当たりがある場合は、早めにクリニックを受診しすることをお勧めします。
■月経の異常がある女性
以下のような月経周期や月経量、月経に伴う症状がみられる方は、排卵機能不全や子宮筋腫、子宮内癒着など、不妊になりやすい可能性があります。ご自身に当てはまる症状がないか、チェックしてみてください。
・月経の間隔が長い(39日以上空く)
・月経の間隔が短い(24日以内に来る)
・月経時の経血の量が多い
・月経が8日以上続く
・月経時の痛みが強まる
・月経時に下痢を起こす
・性交痛が増した
■以前に性感染症・骨盤腹膜炎を指摘されたことがある場合
クラミジア感染症や淋菌をはじめとした性感染症や、骨盤腹膜炎を経験している方は、卵管の炎症により卵管が狭くなってい(卵管閉塞)のリスクがあります。腹部の手術後に骨盤腹膜炎を経験している方はとくに、クリニックで早めに検査してください。
■以前に子宮筋腫・子宮内膜症を指摘されている場合
子宮筋腫や子宮内膜症を指摘されたことがある方は、受精卵が着床しにくくなるなど、不妊のリスクがあります。また、子宮内膜症を指摘されている方で、卵巣チョコレートのう胞がある場合には、卵巣機能が低下することがわかっており、卵子の老化が早く進むこともあるため、注意が必要です。
不妊の原因になりやすい生活習慣
不妊になりやすい生活習慣などはあるのでしょうか?
不妊になりやすいライフスタイルの条件としては、運動不足や不規則な生活、過度な飲酒、喫煙、ストレスなどが挙げられます。ライフスタイルを整えることによって、すべての不妊原因が改善できるとは限りませんが、妊娠前からの生活改善は妊娠後の合併症の発症リスクの減少や、生まれてくる子どもの健康とも強く関係します。

運動不足だと血液の循環が悪くなり、子宮や卵巣といった生殖器官に栄養が行き渡らず、結果的に不妊になりやすくなることがあります。(*9)ただし、適度な運動量は個人差があり、過度な運動が妊娠に悪影響を及ぼすケースもあるため、どのような運動をどれだけすべきかは通院しているクリニックの医師に確認してください。

過度な飲酒をすると、妊娠率が低下することがあります。(*10)飲まない人と比較すると、少量の飲酒であっても、妊娠に至る可能性がわずかに低下すると言われています。

健康な身体づくりのために、妊娠前から健康的な食生活を意識することが重要です。特に胎児の健康を守るための葉酸とビタミンD、貧血を防ぐための鉄といった栄養素の摂取が特に重要です。仕事などで食生活に気を配ることが大変な場合は、サプリメントを併用することもおすすめです。

喫煙や受動喫煙(他の人が吸ったタバコの煙を吸ってしまうこと)の影響で卵子がダメージを受け、不妊に繋がると考えられています。また、妊娠した場合も胎児にタバコは悪影響を与え、流産率が高くなります。市販の禁煙補助薬や禁煙外来などを利用し、早いうちから禁煙を心がけるようにしましょう。

過度なストレスは、ホルモン分泌の乱れや排卵の不安定に繋がります(*11)。運動や趣味などの気分転換になるようなことを行い、うまくストレスを発散するようにしましょう。また、睡眠時間を確保することは、心身の健康においてとても重要です。睡眠を促す物質であるメラトニンの量を増やすために、日中は日光をよく浴びる、パソコンやスマホを見すぎないといったことを心がけましょう。

冷え性で下半身の血液の循環が悪くなると、子宮や卵巣をはじめとした妊娠に必要な器官に十分な栄養が行き渡らなくなり、不妊の原因となります。冷え性の原因としては、ホルモンバランスや自律神経の乱れ、低血圧、貧血などがあるため、クリニックで原因を特定しつつ、適切な治療や対応を行うことが大切です。
不妊が気になる人はクリニックに検査に行こう
妊娠を希望する方は、なるべく早い段階で不妊治療専門医を受診しましょう。(*12)年齢を重ねるごとに妊娠率は低下していくためです。
妊娠を希望してから1年を超えても子どもができない場合は不妊症にあたりますが、30歳以降で妊娠を希望される方は1年を待たずに不妊専門のクリニックを受診してください。人工授精や体外受精などの高額な治療を受けるかどうか決めきれていなくても、現在行っているか妊娠の試みが合っているかどうか、他に良い方法はないかを確認できたり、不妊の原因がないか検査することで新たな方法が見つかったりすることもあります。
また、クリニックを受診する際は、生殖医療の専門知識や実績がある生殖医療専門医がいるクリニックを選びましょう。
▼全国の生殖医療専門医のリストはこちら▼
一般社団法人日本生殖医学会|生殖医療専門医制度 – 認定者一覧 (jsrm.or.jp)
(*1)参考文献 日本生殖医学会
(*2)参考文献 東京都性感染症ナビ 性器クラミジア感染症
(*3)参考文献 日本産婦人科学会 子宮内膜症
(*4)参考文献 徳島県医師会 卵管水腫
(*5)参考文献 日本内分泌学会 多嚢胞性卵巣症候群
(*6)参考文献 日本生殖医学会 生殖医療Q&A Q22 女性の加齢は不妊症にどういう影響を与えるのでしょうか?
(*7)参考文献 日本産婦人科医会 染色体異常
(*8)参考文献 日本生殖医学会 生殖医療Q&A Q5 どんな人が不妊症になりやすいのですか?
(*9)参考文献 Rao, M., Zeng, Z., & Tang, L. (2018). Maternal physical activity before IVF/ICSI cycles improves clinical pregnancy rate and live birth rate: a systematic review and meta-analysis. Reproductive biology and endocrinology : RB&E, 16(1), 11.
(*10)参考文献 Fan, D., Liu, L., Xia, Q., Wang, W., Wu, S., Tian, G., Liu, Y., Ni, J., Wu, S., Guo, X., & Liu, Z. (2017). Female alcohol consumption and fecundability: a systematic review and dose-response meta-analysis. Scientific reports, 7(1), 13815.
(*11)参考文献 Caetano, G., Bozinovic, I., Dupont, C., Léger, D., Lévy, R., & Sermondade, N. (2021). Impact of sleep on female and male reproductive functions: a systematic review. Fertility and sterility, 115(3), 715–731.
(*12)参考文献 日本産婦人科医学会 生殖医療Q&A Q6どのくらい妊娠しないと不妊症の検査を受けたらいいですか?また、どこにいけば不妊症の説明が受けられますか?