2022年10月26日

【実は順番が決まってる!】知っておきたい不妊治療の検査について【前編】

 

妊娠を望む方の中には、自分やパートナーが「もしかして不妊かも?」と感じても、どこに相談したらいいのかわからず悩んでしまっている方もいるのではないでしょうか。

 

「不妊治療」という言葉は知っていても、治療内容がわからないと、なかなか一歩を踏み出せないもの。そこで今回は、知っておきたい不妊治療の内容について、今回は、杉山産婦人科新宿診療部長、順天堂大学産婦人科学講座非常勤講師の黒田恵司医師にお話を聞きました。

 

この記事の監修者
黒田恵司 (くろだ けいじ)
杉山産婦人科新宿 難治性不妊症診療部長 内視鏡診療部長
順天堂大学産婦人科学講座 非常勤講師
2001年 順天堂大学医学部卒業、順天堂医院 産科婦人科学講座 臨床研修医
2003年 産科婦人科 舘出張 佐藤病院
2004年 東京女子医科大学 第二生理学教室 体外受精・卵活性化について研究
2005年 順天堂大学医学部附属順天堂医院 産婦人科学講座
2007年 順天堂大学院 医学博士課程 学位授与、産科婦人科学講座 助教
2010年 Institute of Reproductive and Developmental Biology, Imperial College
London Hammersmith Campus 子宮内膜脱落膜化について研究
2011年The Division of Reproductive Health, Clinical Science Research Institute,
University of Warwick 原因不明習慣流産、着床について研究
2012年 順天堂大学 産科婦人科学講座 助教
2013年 順天堂大学 産科婦人科学講座 准教授
2018年 杉山産婦人科新宿 難治性不妊症診療部長 内視鏡診療部長、
順天堂大学産婦人科学講座 非常勤講師 現在に至る。

専攻領域:不妊症、不育症、内視鏡手術(腹腔鏡、子宮鏡)
専門医:日本産科婦人科学会 産科婦人科専門医、日本生殖医学会 生殖医専門医
認定医:日本産科婦人科内視鏡学会 産科婦人科内視鏡技術認定医、日本不育症学会 不育症認定医

著書:
データから考える不妊症・不育症治療, メジカルビュー社
Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage, Springer社など

 

不妊治療の種類

 

「不妊治療」とはどういう治療なのでしょうか。

 

「不妊治療」とは、妊娠を希望する健康な男女が避妊をせず性生活を続け、一定期間を過ぎても妊娠しない場合に行う治療のことです。(*1)

 

不妊治療にはいくつかの方法があり、はじめに検査をして不妊の原因を探ったうえで、それぞれの原因に応じた最適な治療法を選んで進めていきます。

 

不妊治療にはタイミング法、排卵誘発法、人工授精、体外受精、顕微受精など様々な方法があります。このうち、タイミング法、排卵誘発法、人工授精のことを一般不妊治療、体外受精と顕微受精を「生殖補助医療(英:assisted reproductive technology:ART)といいます。

 

ARTが始まった1980年代は、生殖補助医療は大学病院や大病院のような、一部の医療機関でしか受けられませんでした。しかし、現在では全国の病院やART     専門クリニックで治療が受けられるようになりました。

 

 

不妊の原因を特定するための検査

 

不妊の原因を知りたいときは、どのような検査をしますか?

 

不妊となる原因は男女ともにあるため、原因を探して治療を進めていくためには男女それぞれ検査を行うことが大切です。(*2)

 

女性が行う不妊症の検査は、主に2つのパターンがあります。ほとんどの方が受ける一般的な検査と、その検査の結果を受けて子宮内膜症などの疾患が疑われる場合などに受ける特殊な検査です。

 

女性の不妊検査 女性の不妊検査

 

■一般的な検査

女性が行う一般的な検査には、主に以下のものがあります。

 

①クラミジア検査

クラミジア感染症は、クラミジア・トラコマチスというウィルスによる性感染症です。感染すると、子宮頸管や卵管が炎症を起こしたり、卵管が癒着・閉塞を起こして不妊の原因になったりすることもあります。さらに、子宮や卵管で起きた炎症により、子宮内膜が炎症を起こす子宮内膜炎や、受精卵が卵管内で着床してしまう子宮外妊娠などのリスクが高まります。

 

クラミジアの有無については、子宮頸管粘液のPCR検査もしくは血液による抗体検査で判定します。

 

②ヒューナーテスト

ヒューナーテストは、排卵日の性交後の子宮頸管粘液を採取し、その中の精子の有無と運動率(どの程度精子が運動しているか)を調べる検査です。頸管粘液は排卵前のタイミングで、精子が通過しやすい状態に変化します。この検査で異常がある、つまり頸管粘液の中の精子の状態が悪い場合は、もともとの精液所見に異常がある、もしくは精液検査が正常であるにもかかわらず子宮内に精子が入ることができていないことが考えれられます。

 

③抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査

AMHは、卵巣内に残存する卵子の数と相関するため、卵巣予備能を調べることができます。AMH値に応じて、人工授精や体外受精などを検討していきます。

 

④基礎体温測定

基礎体温とは、生存のために必要最小限のエネルギーを消費しているときの体温を意味します。つまり、寝ている時の体温のことです。基礎体温を測定することで、体内の女性ホルモンの量の変化や、いつ排卵したかなどを調べることができます。

 

基礎体温を測る際は、専用の体温計を使います。朝起きたタイミングで体温計の先を舌の付け根にあてて、体温を測定します。最近では、基礎体温を記録するアプリを使って、基礎体温の変化を確認する人もいます。

 

⑤内診・経腟超音波(経腟エコー)検査

腟の中を見て触れることで異常を確認する内診と、腟     に超音波プローブという直径約1.5-2cmの機械を挿入して子宮や卵巣の状態を確認する     経腟超音波検査(経腟     エコー)の2種類があります。また、経腟超音波検査では、手で腹部を押して痛いところがあるかどうかの確認も行います。

 

これらの検査を通じて、子宮筋腫・卵巣のう腫・子宮内膜症など、不妊の原因となる異常がないかを確認します。

 

⑥子宮卵管造影検査

受精卵が着床する場所である「子宮」や、卵子と精子の通り道である「卵管」の異常が不妊     の原因となっていることがあります。そして、子宮と卵管の異常を見つけるために行うのが、この子宮卵管造影検査です。

 

子宮卵管造影検査では、子宮の入り口から子宮内へ造影剤という液体を注入し、レントゲンを使って造影剤の流れを確認します。この検査によって、子宮の形に異常がないか、卵管が狭くなっていないかを確認することができます。

 

この検査は、造影剤を注入するときに少し痛みをともなうことがあります。しかし、この検査をした結果、卵管の通りがよくなり、自然妊娠する可能性が高まるとも     わかっています。そのため、不妊治療を行う前に受けておきたい大切な検査です。

 

⑦血液検査

採取した血液をもとに、妊娠に関わるホルモンの異常や糖尿病などの病気があるかどうかを検査します。

 

ホルモン検査では、女性ホルモン・男性ホルモン、卵巣を刺激する卵胞刺激ホルモン(FSH)・黄体化ホルモン(LH)のほか、母乳を分泌するプロラクチンや甲状腺ホルモンなど、さまざまなホルモンの検査が含まれています。

 

体内のホルモンの量は、月経周期によって変化します。その為、採血は月経期と排卵後の黄体期の2回に分けて行います。

 

 

■特殊な検査

上記のような検査の結果をふまえて、病気の有無を確認するために、以下の検査を行うことがあります。これらの検査の中には、クリニックから紹介状をもらい、大病院で行うものもあります。

 

①腹腔鏡検査・子宮鏡検査

腹腔鏡検査は、体内にカメラを入れて、子宮や卵管の異常を確認する検査です。

 

手術室で全身麻酔をかけて、おへその辺りから細いカメラを入れて、子宮や卵管を観察します。サイズにもよりますが、卵巣や子宮に     腫瘍(卵巣のう     腫・子宮筋腫など)が確認された場合は、同時に     切除することができます。また、卵胞が育たず排卵しにくくなる多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)の手術も同時に行うことができます。

数cmほどの傷跡が腹部に残る検査ですが、一回の検査で、あらゆる不妊の原因を探ることができます。

 

子宮鏡検査は、子宮の入り口から内視鏡を挿入し、受精卵が着床する場所を直接観察する検査です。子宮鏡検査は腹腔鏡検査とは異なり、お腹に傷をつけることがなく、全身麻酔も必要ありません。この検査では、ポリープや筋腫、内腔の癒着(子宮の内側の膜がへばりついている状態)など、子宮の中の異常を確認することができます。

 

②骨盤MRI検査

骨盤MRI検査は、CT検査のように大きな筒状の装置に入り、電磁波を使って体内の様子を調べる検査です。子宮や卵巣の状態を細かく調べることができるのがその特徴です。そのため、子宮筋腫・子宮内膜症・卵管水腫(らんかんすいしゅ)・など様々な不妊の原因を探ることができます。

 

 

男性の不妊検査 男性の不妊検査

 

男性の不妊の原因は精子そのものや精子をつくる機能などにあるのが主で、検査は精液検査と泌尿器科的な検査に分けられます。

 

精液検査は、不妊検査を受診する男性のほとんどが受ける検査です。また、必要に応じて、エコー検査や採血などの泌尿器科的検査を行うことがあります。

 

 

■精液検査

精液検査は、精液を調べて、量や濃度、運動率・運動の質、形態、性感染症への感染有無などを検査します。

 

検査方法は、2~7日の禁欲期間(射精しない期間)のあとに、用手法(マスターベーション)で精液を採取して行います。精液は自宅で採取し病院に持参することもできますが、正確な情報を得るためには精子を採取してから30分~1時間ほどで検査する必要があるため、病院で採るのが望ましいです。 また、男性の精液の状態は日によって変わるため、1度検査をして出た結果だけを見て判断せずに、2回以上検査を行うこともあります。

 

■泌尿器科的検査

泌尿器科的検査では、主に診察・採血・尿検査・エコー検査の4つを行います。これらの検査結果をふまえて、必要に応じて特殊な検査を行うことがあります。

 

①診察

まずは問診から、不妊症に関わる病気の既往の有無、現在の性生活の状況(勃起や射精の状態など)を確認します。

 

そして生殖器を触診し、陰嚢や睾丸の大きさ等を確認していきます。また、精巣の上にある精索(せいさく)に瘤のようなもの(精索静脈瘤)があるかも確認します。

 

精索静脈瘤では、精巣の上を流れる血管がふくらんだ結果、精液の温度が上がってしまい、精子のDNA異常や精子の運動率の低下をもたらすと考えられています。その結果、人工授精や体外受精などの成功率が下がってしまうことがあります。次に説明する超音波検査と触診で精索静脈瘤が確認された場合、適切な治療(手術)を行えば精索静脈瘤は改善する可能性が高いといわれています。

 

 

②超音波(エコー)検査

陰嚢に超音波プローブを当てて陰嚢・精索・精巣の状態をチェックします。精索静脈瘤を診断するには最も簡単な検査方法で、触診よりも違和感の少ない検査です。また、精巣がんなどの他の病気を見つけることもできます。

 

 

③採血検査

採血によって、血液中の男性ホルモン(テストステロン)や性腺刺激ホルモン(LH、FSH)、場合によってはプロラクチンなど、さまざまなホルモンについて調べます。また、精子形成に関係する染色体や遺伝子の検査を行うことがあります。この検査によって、精液の異常、勃起障害、射精障害の原因を探ることができます。

 

 

④特殊な検査

一般的な検査の結果をふまえ、次は症状に応じて行う特殊な検査があります。たとえば、精嚢や射精管の形態を調べるMRI検査や、精子の機能を調べる検査、精巣での精子をつくる状況を調べる精巣生検、プロスタグランジンという薬を陰茎に投与して勃起能力を調べる検査などが行われます。(*3)

 

不妊治療を受けているカップルの50%程度は男性側にも原因があるとされているため、男性不妊の原因を探ることは、その後の不妊治療の方針を決めるためにはとても大事なこと。不妊治療はパートナーで協力しあうことが大切です。

後編へ続きます

 

 

参考文献

(*1)参考文献 日本産科婦人科学会 不妊症

(*2)参考文献 「不妊症・不育症治療」・メジカルビュー社・p106-107

(*3)参考文献 「Science and Practice産科婦人科臨床シリーズ 4不妊症」・中山書店・p14-87

(*4)参考文献 日本生殖医学会

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